業務の属人化を解消するための5つの実践的手順【テンプレ付き】

属人化による業務環境の悪化に悩んでいませんか?

属人化の解消は中小企業の安定的な経営基盤の実現において、とても重要です。
属人化をしていることによって思わぬ退職や人手不足を招き、事業自体を崩壊させてしまうことも実際にあるのです。

そこで、属人化の解消の具体的な対処方法がわからない方でも、明日から属人化の解消に取り組めるメソッドを開発しました。

年間100社以上の中小企業との実践経験から試行錯誤して作ったメソッドです。

実際の現場で属人化の解消をおこなってきたメソッドで、勤続20年以上のベテラン社員さんの仕事も、一緒に納得して取り組みながら社内環境を改善することができるという成果を上げてきました。

ポイントは、優先的に属人化を解消すべき業務を決め、業務の棚卸とシステム化を行うことです。

このメソッドを導入することで、属人化の解消の中で感情論でぶつかりあうことがなくなり、
大事なコア社員を失うことなく、確固とした社内の業務環境を整えることが可能
です。

みなさんが属人化の解消に実践していただきやすいよう、無料のスプレッドシートのテンプレートを用意しました。また、具体的な手順を詳細に解説しています。

しっかりと実践すれば、社内の属人化を解消でき、明日から新人をいれても権限移譲ができるような
安定した経営基盤を手に入れられる
ので、ぜひ参考にしてみてください。

1.属人化を解消すべき2つの理由

中小企業において属人化は解消をしないと大変なリスクを抱えることになります。
中小企業でよくある、属人化によって起こる問題をご紹介いたします。

1-1.業務の非効率化

属人化によって業務が非効率化する場合が多いです。
中小企業で属人化することで、業務が非効率化する主な理由は以下の通りです。

  • データの共有・連携がうまくいかない
    顧客とのやり取り、請求書や見積書の送付など、業務に必要な情報が属人化することで、データの共有がうまくいかず、ムダな業務の発生につながります。

  • ボトルネックの発生
    特定の人がいないと業務が進められないようになっている場合、素早い対応ができなくなる場合があります。

  • 業務の見直しが困難
    同じ業務でも社内で人によって処理方法が違ったり、その人にしかわからないルールが共有できていないと、業務全体の効率化を図ることができず、改善をすることができません。

1-2.企業の持続可能性の低下

  • 人に教えるより自分でやったほうが早い
  • うちのやり方は例外だから

ある一定の水準までは、属人化していた方がメリットが大きい場合もあります。
しかし、属人化を解消しないでいると起こる問題が企業の持続可能性の低下です。

  • 業務のブラックボックス化
    業務のやり方やノウハウが特定の人に依存するブラックボックス化が発生することで、企業の持続可能性への影響が発生します。
    業務停止:特定の担当者が退職すると業務が停止し、社内外に混乱を招くリスク
    隠蔽・不正:不正行為やミスの発覚が困難になるリスク
    ノウハウの流出:特定の担当者が、ノウハウを持ち起業するリスク

  • 重大なミス発生のリスク
    特定の担当者に業務が属人化している場合、業務を監査する体制を構築できず、企業の持続可能性を損なう可能性があります。
    ・コスト増加:現場で知らずにが決済され、コストが増加するリスク
    書類の入力ミス:契約書の入力ミスにより長期的に不利な契約を強いられる可能性も
    顧客関係の悪化:顧客との関係悪化による契約終了など

  • 人材採用・教育の難化
    業務が属人化することにより、人材採用・教育の難易度が上昇し、企業の持続可能性を損ないます。
    採用コストの増大:業務のやり方が一般化されていないため、採用時の能力がより高いものが求められ、高度な人材を採用せざるを得なくなる。
    教育コストの増大:新人が一人前になるまでの教育期間の長期化により、教育コストが増大する
    離職率の増加:属人化していることにより、離職率の増加につながる場合があります。
     □属人化した業務を担当することで過度なプレッシャーがかかることで疲弊する
     □繁忙期に業務集中し、残業や休日出勤が増えることでプライベートが確保できない
     □教育期間が長く、給与が上がらないため、転職

2.属人化の解消を優先すべき業務

属人化の解消の優先順位が上位の業務と下位の業務をご紹介します。

これから初めて属人化の解消に取り組む場合は必ず優先度が高い業務から進めてください。
優先度が低の業務は、失敗すると業績や組織体制に重大な影響を及ぼすリスクがあります。

もし取り組む場合は、専門家の助言や伴走型の支援が必要となります。
優先度が低の業務は、社内で業務改善の知見が溜まっていない状態では、着手しないようにしましょう。

 

2-1.属人化解消の優先順位が上位の業務

これから挙げる4つの業務は最初に取り組むべき優先度の高い業務です。

 

理由としては以下の3つが挙げられます。

  1. 業務の可視化が簡単。業務改善によりコスト削減が見込める。
  2. 代替案が多数存在するので、予算に合わせてすぐに代替可能
  3. 顧客への影響が少ない状態でトライアンドエラー可能

属人化の解消は、業務のやり方だけでなく、従業員の業務に対する思い入れや、やりがい・誇りといった感情の問題も一緒に考えていく必要のある難しい問題です。

そのため、急激に進めるのではなく会社全体で取り組みながら経験を積むプロセスが必要になります。

属人化が解消されると、本業以外の業務から解放され、本業に集中できるようになるため、ぜひチャレンジしてみてください。

本章では、各業務ごとに属人化の進行度合いをチェックできる診断をご用意しています。
3つ以上チェックがつく場合は、すぐにその業務の属人化解消に向けて具体的に取り組みましょう。

2-1-1.経理業務

経理業務は属人化を解消する優先度が最も高い業務です。
理由としては主に以下の3つが挙げられます。

  • 決算書の作成というゴールが明確
    経理業務は、最終的に決算書を作成して申告するというゴールが明確です。
    そのため、属人化の解消のために必要な情報が漏れなく確認できるため取り組み易い業務です。

  • 業務のプロセスが明確
    見積・契約・請求・入金・入金消込・記帳など、業種業態により、証憑ごとの項目の違いはあれど処理するプロセスに大きな違いはありません。そのため、他の業務よりも業務のプロセスの明確で業務フローを整理しやすい業務です。

  • 税理士に確認しながら進められるので安心
    ほとんどの中小企業が外部の税理士事務所に顧問を依頼しているため、何かミスや業務設計しきれなかったことによるトラブルが発生してもフォローが見込めます。そのため、他の業務と比べて、顧客に迷惑をかけず、少しずつ試しながら経験を積むことができるという面で取り掛かりやすいです。

 

経理業務の属人化診断チェックリスト

チェックが3つ以上ついている場合は属人化している可能性があります。

□経費精算をエクセルで行なっている

□特定のパソコンに会計ソフトが入っていて、社長がいつでも会計を確認できる状態ではない
□売掛の請求書発行の社内でのやりとりをメールまたはチャットで行なっている

□買掛の請求書受け取りを社内で、メールまたはチャットで行なっている

通帳記帳のために銀行に行っている

月末の支払一覧の作成者と支払の作業者が同一人物で第三者の確認が入っていない。

支払の振込処理を1件ずつ人が行なっている

仕訳の入力のルールが決まっていない。勘で行なっている。

原価処理の会計ルールが社内で共有されていない

部門別会計の会計ルールが社内で共有されていない

□売掛金の回収のルールが決まっておらず、未入金が常に残っている

属人化の解消の方向性
経理業務が属人化している場合の対処法をご紹介します。
原則、アナログで対応していることをデジタルに置き換えることで、業務のフローが明確になり、属人化を解消することができます。

  • クラウド会計の導入
    マネーフォワード会計・freee会計・弥生会計クラウドなどクラウド会計ソフトの誕生で、これまで経理担当者が独自にやっていた業務を比較的安価に自動で行えるようになりました。
    顧問の税理士がクラウド会計に対応可能であれば、​クラウド会計を導入すると、効果は大きいです。
    ・特定の担当者しか仕訳を判断できず記帳ができない→クラウド会計で仕訳を登録可能
    ・通帳を経理が保管し、銀行に記帳へ行く→クラウド会計で口座情報を自動連携
    ・未入金の仕訳を毎回エクセルで確認→クラウド会計で、未入金を瞬時に確認

  • インターネットバンキングで総合振込の利用
    意外と知られていないのが各銀行で提供している、総合振込機能です。インターネット上で、複数の振込を一度に行うことができます。
    振込作業を1件ずつ経理担当者が行うような属人化が発生していると、ミスが起こる可能性があります。以下のような業務フローにすると、一つの作業に、作業者と確認者を設けることができ、ミスを大幅に減らすことができます。
    ・経理担当者が月末に支払一覧のcsvを作成
    ・上長がcsvを確認(問題があれば修正)
    ・経理担当者がcsvをアップロードし、支払日を設定

2-1-2.労務業務

労務業務は、経理業務と並び、属人化を解消する優先度が最も高い業務です。
理由としては主に以下の3つが挙げられます。

  • 給与支給というゴールが明確
    労務業務は複雑な業務の組み合わせですが、最終的に正しく従業員に給与を支払う。
    というアウトプットが明確です。そのため、勤怠・雇用条件・入社/退社情報など必要な情報が決まっています。そのため、経理業務と同様に属人化の解消のために必要な情報が漏れなく確認できるため取り組み易い業務です。

  • 業務のプロセスが明確
    業務のプロセスや、従業員に提供すべき書類のフォーマットが明確です
    複雑な成果報酬制度を敷いていない限りデジタル化が容易に実現可能です。
    また、社内の属人化した運用ルールを守ることよりも、法令が変更された時の対応の優先度が高いです。法令の変更に対応しているWebシステムを利用したほうが、業務の継続性・安定性が向上します。

  • 社労士に確認しながら進められるので安心
    給与計算を社内で実施している中小企業もありますが、ほとんどの場合、給与計算を社労士に外注した方が長期的にコストは安く、しかも安心です。給与計算に必要なものを社労士とすり合わせを行い、渡す必要があるものをすり合わせできれば、自社で行う業務を最小限にできます。また、社労士は、法令の変化にも対応できるため、自社でキャッチアップしにくい部分も確認でき安心です。

 

労務業務の属人化診断チェックリスト

チェックが3つ以上ついている場合は属人化している可能性があります。

□入社手続きのチェックリストが社内にない
□入社の際、従業員情報を紙で回収している

□履歴書を全て紙で回収し、ファイリングしている

雇用条件契約書をエクセルで作成している

雇用条件契約書の作成者と確認者が同一人物で、第三者の確認が入っていない

□雇用中の従業員の正しい情報が入ったデータベースが存在しない

給与計算の手続きのルールが共有されていない

給与の控除・支給科目が存在する場合、根拠となる1次データ(交通費の申請書や出張報告書)と給与計算ソフトに入力されたデータの確認作業が業務に組み込まれていない

有給休暇の計算を労務担当者が手で計算している

退職手続きのチェックリストがない

労務トラブルの対応内容がブラックボックス化しており、2人以上の担当者が内容を把握している状態にない

属人化の解消の方向性
労務業務が属人化している場合の対処法をご紹介します。
経理業務と同様に、アナログで対応していることをデジタルに置き換えることで、業務のフローが明確になり、属人化を解消することができます。

  • クラウド勤怠システムの導入
    タイムカードの利用を続けている会社はまだまだ多いですが、クラウド勤怠システムに置き換えると管理側も従業員側も手間を減らすことができます。
    king of time、MFクラウド勤怠など、勤怠システムの導入を検討することをお勧めします。

  • クラウド労務システムの導入
    クラウドの労務管理システムですと、中小企業での導入を考えた場合、お勧めはSmartHRです。
    クラウドでの入社情報・退社情報の管理、雇用契約書をはじめとした、従業員への文章配布システムなど必要な機能は実装されており、コストも安いです。

 

2-1-3.帳票発行業務

帳票(見積・請求・発注書などの発行)業務を社内で紙またはエクセルで行なっている場合は優先度が非常に高い業務です。
理由としては主に以下の3つが挙げられます。

  • 帳票ごとにアウトプットが明確
    帳票の種類は違えど、入力するデータの種類や内容は明確です。そのため、属人化の解消のために必要な情報が漏れなく確認できるため取り組み易い業務です。

  • 企業の持続可能性に大きく関わる
    見積書・請求書などの帳票は企業の取引の根幹をなす業務です。
    これらの発行業務が属人化しているということは、潜在的に企業活動の停止リスクがあるということです。特定の担当者だけでなく、社内で特定の手続きを踏めば誰でも発行できる環境を整備しておきましょう。

  • 無駄が発生している可能性が高い
    同じ情報を何度も別の担当が入力するようなムダが発生している場合が多いです。会社情報・商品情報・担当情報など、統一したデータベースを作成して何度も入力しなくていい環境整備が必要です。

帳票発行業務が属人化しているかのチェックリストです。

帳票発行業務の属人化診断チェックリスト

チェックが3つ以上ついている場合は属人化している可能性があります。

□見積書・請求書・発注書・注文請書・領収書を紙で作成している
□帳票を手書きの紙で発行していて、データ化されていない

□見積書・請求書・発注書・注文請書・領収書をエクセルで作成している

□帳票を各社員のパソコンでバラバラにエクセルで作成している

□帳票作成のための情報が担当者の記憶以外で確認する方法がない

□帳票の作成者と確認者が同一人物で、第三者の確認が入っていない

□帳票発行業務のチェックリストがない

属人化の解消の方向性
帳票発行業務が属人化している場合の対処法をご紹介します。

  • 帳票発行システムの導入
    帳票の発行システムは様々ですが、月々の発行枚数もあまり多くなく、見積書・請求書・発注書・領収書などの基本的な帳票をクラウド化したいという場合は、invoyがお勧めです。
    月額料金無料で、クラウドで請求書の発行ができるだけでなく、freee会計、マネーフォワード会計、弥生会計などに連携するためのcsvも発行できます。

  • 販売管理システムの導入
    帳票の発行にワークフローを導入したい場合は、販売管理システムの導入が必要となります。
    ただし、問い合わせから、見積もり、契約、請求の一連の業務がきちんと整理できていない状態でシステムを導入しようとすると、自社の業務フローをうまくあてはめることができず、導入を失敗する可能性があります。しっかり属人化している部分を棚卸をして業務フローを明確化しましょう。

2-1-4.営業管理業務

営業管理事務は、BtoB(Business to Business:法人対法人のビジネス形式)の中小企業では、優先度が高いです。BtoC(Business to Customer:法人対個人のビジネス形式)でも、顧客の単価が高い場合やリピートが重要な場合は属人化を解消するために取り組む必要があります。
理由としては主に以下の3つが挙げられます。

  • 顧客の信頼を損ねるリスクが大きい
    BtoBの場合は、一般的にリピート顧客の継続率や単価上昇が事業の業績を決める場合が多いです。
    そのためには顧客ごとのニーズややり取りをチームで把握することが重要です。
    しかし、商談のや議事録作成・共有は営業担当にとっての業務負荷が高く、ブラックボックス化しやすいです。この状態を放置すると、退職や休職時に顧客対応が滞るリスクがあるため、属人化の解消をしておきたい業務です。

  • 採用の難易度に影響する
    営業管理の業務領域がきちんと定義されていると営業未経験者を採用することができるようになります

  • 大量退職の要因になりやすい
    顧客管理の仕組みが属人化しているとマネージャー以下の部下も含めて、同業種での起業・一斉退職といった最悪の事態に発展するリスクがあります。ノウハウの属人化を極端にさせすぎないような工夫が必要です。

 

営業管理業務の属人化診断チェックリスト

チェックが3つ以上ついている場合は属人化している可能性があります。

□問い合わせ情報がまとまっているリストがない

□営業管理業務をエクセルで行なっている。
□商談の情報がチームで共有できる仕組みがない

□営業の見込み(問い合わせ・商談前・商談後・見積もり・契約など)の段階が社内で決まっておらず、各社員の体感で決まっている。
□契約書が紙で印刷されていて、検索できない状態になっている

□取引先のマスターがなく、取引先ごとの行動管理(商談情報・見積情報など)ができていない。

□商談の議事録が、各社員のパソコンにエクセルで保管されていて、ブラックボックス化しており、2人以上の担当者が内容を把握している状態にない

属人化の解消の方向性
営業管理業務が属人化している場合の対処法をご紹介します。

  • 顧客管理システム・営業管理システムの導入
    営業管理業務は、バックオフィス業務でありながら、売上にも影響を及ぼすことができます。
    業務削減により浮いた時間をそのまま顧客との接点を作る時間に回すことができるからです。
    しかし、システム化をするためには、CRM(Customer Relationship Management:顧客管理)やSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)といった顧客との接点管理のための専門知識が必要で難しい領域です。

2-2.属人化解消の優先順位が下位の業務

顧客対応・品質管理・製造管理・特殊技能を用いる業務については、これから初めて属人化の解消を行う場合は、手をつけない方がいい業務です。

うかつに手を出すと、業績に大きな悪影響を及ぼすリスクがあります

2-2-1.顧客対応

電話対応、営業、商品配送、接客などの顧客対応は、属人化の解消に取り組んだ経験値がない場合は、なるべく手をつけたくない業務です。

  • 顧客の体験を損ねる可能性がある。
    顧客受けるサービスの品質や体験を損ねないように属人化の解消を行う必要があります。
    そのため、業務分析や代替案の選定に高度な知識が必要となります。

  • 社員のやりがいを損ねる可能性がある。
    顧客対応をおこなっている社員は顧客愛を持っている場合が高いです。
    ここを損ねると、大きく業績に影響するだけでなく退職につながるリスクがあります。

  • コストが高い
    顧客対応の属人化の解消は、大きな投資判断になる場合が多いです。
    そのため、適切な事業計画を立てた上で実施することが望ましいです。

2-2-2.品質管理・製造管理

品質管理・製造管理は属人化の解消に取り組んだ経験値がない場合は、ほぼ実現不可能です。
もし必要な場合は、専門家の助言やサポートを入れながら慎重に進めましょう。

  • 品質の違いは数値化できない場合がある。
    品質管理には見た目や香り、重さなどの数値で計量するべき項目が多いだけでなく、細かな差異が顧客の購買状況に影響する場合が大きいです。

  • 製造管理は複雑化しやすい
    製造管理をする場合、受注管理・製造管理・納品管理・在庫管理と一連の流れを紐解く必要があります。そのため、属人化を解消するためのハードルが非常に高いです。また、設備投資やシステム投資の金額が莫大になる場合があるため、適切な事業計画が必要です。

  • モチベーションダウンのリスクが大きい
    職人の目や手で測らなくてはいけない業務に関しては、プライドをもって業務に向かっている度合いが非常に大きいです。そのため、ヒアリングの進め方や業務体制の変更に、より細心の注意が求められます。

2-2-3.特殊技能を用いる業務

エンジニアの業務、職人の業務など、高度な特殊技能を用いる業務については属人化の解消が簡単にはできない業務となります。また、属人化の強化が自社の強みになる場合があります。

  • 非合理な作業が参入障壁になる場合がある
    特殊技能が必要とされる業種(伝統工芸や、醤油・酢・酒などの高単価消費財)では現在合理化が図られたものに、非合理に手間ひまをかけること、何年も習得に時間がかかり属人化が必要になること自体が参入障壁の高さにつながる場合があります。

  • 業務の属人化度とモチベーションが比例する場合がある
    その人にしかできない業務ができるようになることはモチベーションを上昇させる大きな要因の一つでもあります。そのため、やりがいを損ねないように注意してください。

 

3.属人化を解消するための簡易診断

あなたの会社で、どの業務から属人化の解消を行うか決まりましたか?

具体的に業務が決まったら、まず何をするべきか?
次のアクションを明確にする必要があります。

30秒ほどでアクションが明確になる診断を用意しました。
自社で属人化の解消をしたい業務を一つ選び、診断してみましょう。

属人化解消のためのアクション診断

 

診断のポイントは以下の2つです。

  1. 業務の流れは明確に把握できているか?
    業務の全体像が明文化されていて、共有されているか?がポイントです。
    業務の棚卸が完了していれば、問題なく把握できているといえます。

  2. 従業員が納得して属人化の解消に取り組んでいるか?
    属人化の解消に取り組む際は、従業員のモチベーション低下による退職がリスクとしてあります。
    社内での納得感を醸成して取り組む必要があることがポイントです。
    従業員が、何のために属人化の解消を進めるか目的を理解できていれば問題ないといえます。

4.属人化の解消のためのステップとポイント

簡易診断の結果を踏まえ、具体的に属人化の解消に取り組んでいきましょう。
基本的には「4-1.目標と課題の共有」から「4-5.新しい業務フローの策定をする」までを順番に実施してください。

ただし、アクション診断で4-3.業務の削減との診断が出た場合は、「4-1.目標と課題の共有」「4-2.業務の棚卸」の前の工程はスキップしても構いません

4-1.属人化解消の目的を共有する

このステップから取り組む方は、

  • 属人化を解消すべき業務が明確
  • 業務の棚卸が完了していない
  • 従業員と属人化の解消についての合意がない

けれども、業務の属人化を解消したい。という方です。

この段階で最重要なことは、従業員との合意形成です。

  • 感情的にも、属人化の解消に取り組みたいと思う
  • 理屈的にも、なぜ属人化を解消するかが理解できている

この状態を目指します。

そのためにはまず、属人化の解消についての目的の共有が重要です

属人化の解消という話題は、担当者自身に議論の矛先が行ってしまったり犯人探しに走ってしまうリスクがあります。

そのため、まず課題を紙に書き起こし、議論の矛先を人から課題そのものに向かうよう
安心安全で、建設的な議論ができる環境を整える必要があります。

今回は、中小企業が属人化の解消を行う際に作成することをおすすめしている
プロジェクトシートの具体的な作成方法をご紹介します。

 

【プロジェクトシートの作成方法】

  1. 属人化の解消をはかる業務を1つ決める。
    必ず特定の業務を一つ決めましょう。プロジェクトの規模が大きすぎるとやりきれなくなってしまいます。

  2. 業務に関わるメンバーを集める。
    利害関係があるメンバーを全員集めましょう。

  3. 業務の課題を洗い出す。
    業務の課題を具体的に洗い出しましょう。
    時間がかかる、コストがかかる、以外にも、めんどくさい、やりたくないといった心情的なものも洗い出しましょう。

  4. 課題の優先順位を決め、達成期日を決める。
    洗い出した課題のなかで、具体的に取り組む課題を決めましょう。
    できれば直近1週間から1ヶ月で取り組める課題が最適です。

  5. 課題解決により得られる利益と避けられる損失を明確にする。
    なぜ属人化を解消するのか?を、「会社として」得られる利益、「事業として」得られる利益、「チームとして」得られる利益、「従業員として」得られる利益、さまざまな立場でどんなことが考えられるかをメンバー全員で議論していきましょう。

  6. 合意日を決め、主体的に関わるメンバーを決める。
    全員が同じ温度感でこのプロジェクトに関わることが決まったら、
    合意日を決め、主体的に関わるメンバーを決めましょう。

4-2.業務を棚卸する

業務の課題を正確に特定するために、業務の棚卸を実施します。
ここでいう業務の棚卸とは、業務の流れとボリュームを書き出して把握することです。
全体的なポイントは以下の3つです。

  • 時間を決めてできるところまで、無理なくやりましょう。
    最初から全部やろうとすると人が集まらない、時間がないなどで頓挫する確率が高いです。
    30分でもいいので、時間を決めて、書き出しましょう。

  • 業務を書き出すことだけに集中して取り組みましょう
    業務の棚卸が目的なので、業務の流れを書き出すことに集中しましょう。
    解決策の議論や削減する業務の策定は次のステップで行うので、話が脱線しないように意識してください。

  • 大まかに全体感を捉えましょう
    この業務の棚卸で必要なことは、全体的な業務の流れを把握し、課題を明らかにすることです。
    80%以上の確率で発生するものはモレなく書き出し、年間で一件しか発生しないような例外は無視して構いません。

【業務の棚卸の進め方】

  1. 業務をモレなく書き出す
    まずは、属人化を解消したい業務のなかで具体的にどんな業務があるのかを書き出していきます。

    ホワイトボードや模造紙、付箋など書き出しやすいものを準備しましょう。
    パソコン作業になれていて、Web上でまとめたいなら、
    lucid chartは無料で使えて便利です。(https://www.lucidchart.com/pages/ja)

    本当は、フローチャートの書き方は正式なものがありますが、覚えていると大変です。
    四角と矢印だけを使って、順番と流れを意識しながら書いていきましょう。

    以下が、顧客からの問い合わせを営業担当者に共有するまでの流れを書き出した場合の例です。

  2. 経路や頻度、具体的に把握できるものを洗い出す
    業務の流れを大まかに書き出すことができたら、以下のようなことに気をつけながら、詳細を把握していきましょう。
    ・誰が業務を行っているのか?
    ・具体的にどれくらいのボリュームがあるのか?(何件?何分?などの数量)
    ・どんな内容を把握するためにやっているのか?(メモの項目など)
    ・なぜその業務を行っているのか?

  3. 属人化しているポイントを洗い出す
    業務の中で属人化しているポイントに目印をつけていきましょう。
    ・人が手で作業をしている
    ・特定の担当者ではないと作業・判断ができないもの
    上記に該当するものには、属人化マークをつけていきましょう。

 

ここまでできれば、属人化を解消すべきポイントが見えてきます。
次のステップに進みましょう。

4-3.業務を削減する

  • 従業員との合意形成ができている:4-1.目標と課題の共有が完了
  • 業務の棚卸ができている:4-2.業務の棚卸が完了

    上記が完了している方は、属人化業務の今後の方針を決定します。
    4-2.業務の棚卸を完了した方は、属人化マークをつけた赤く塗ってある業務が判断の対象です。

多くの業務効率化の指南書では、ここで業務をマニュアル化します。
しかし、本記事では業務をマニュアル化しません。
なぜなら、マニュアル化は、覚えてなければできないという性質を持っている時点で属人化しているからです。

そもそも、属人化をしている業務を今のまま続けるのか?それともやめるのかを判断する必要があります。まず、該当する業務が、紙を用いる業務手作業の業務であれば、現状のやり方をやめて新しい方法を模索するため、業務の削減を検討します。

 

  • 紙の業務を削減する

中小企業の業務で属人化している原因の一つは紙の業務です。
紙管理を脱却し、デジタルデータでの管理にすると、履歴が共有されたりやり取りが透明化し、属人化の解消につながります。

紙管理をやめてデータ化することがデジタル化の第一歩です。

  • 紙の契約書をファイルで保管するのではなく、スキャンしてPDFで保管する
  • 紙のFAXを印刷せず、電子FAXを使用してPDFで保管する
  • 手書きメモを付箋で共有するのではなく、チャットツールを使って電子データで共有する

このように、紙を利用する業務は業務削減の対象です。

  • 手作業を削減する

中小企業の業務で属人化している原因のもう一つは手作業の業務です。
手作業をやめてシステム化することが属人化解消の2歩目です。

  • エクセルにデータを手で打ち込み売上集計する業務を、分析ツールに置き換える
  • 紙の請求書を郵送する業務を、請求書システムに置き換える
  • 電話で注文を受ける業務を、注文システムに置き換える

このように、手作業は業務削減の対象です。
エクセルのようにパソコンを使っていても手作業ならば業務削減の対象です。

 

4-4.デジタル化を検討する

属人化している業務をそのままのやり方で続けてもまた属人化してしまします。
属人化を解消するためには、そもそも属人化しない環境にする必要があります。
属人化を解消するために、デジタル化の可能性を検討していきましょう。

属人化の解消以外のデジタル化のメリットは以下の通りです。

  • 業務の可視化が簡単になる

    • 業務の進捗や担当者がリアルタイムで確認できるため、情報が共有されやすくなります。
    • 例:紙の書類をデータ化してクラウド上で管理。
  • 作業時間の削減

    • 手作業で行っていた反復的な業務を自動化することで、時間とコストを大幅に削減できます。
    • 例:見積書の作成や請求書の送付を自動化。
  • 情報の一元化

    • データを一箇所で管理することで、検索性が向上し、担当者に依存しない体制が構築されます。
    • 例:顧客情報をCRM(顧客管理システム)で統一管理。

 

以下に、中小企業が使いやすく、費用も高いデジタルサービスの案をまとめました。

分類削減対象業務代替案代替サービス案
経理業務紙の経費精算書作成経費精算システムマネーフォワード経費精算
経理業務手作業での仕訳データ入力自動仕訳システムFreee、マネーフォワード
経理業務支払い請求書の管理請求書管理システムバクラク請求書
経理業務紙の売掛金一覧管理案件管理システムkintone
労務業務タイムカードでの勤怠管理クラウド勤怠システムKing of Time、ジョブカン勤怠管理
労務業務紙での有給申請書の管理デジタル申請システムSmartHR、ジョブカンワークフロー
労務業務紙での給与明細発行・配布デジタル給与明細システムSmartHR、マネーフォワード給与
労務業務紙での年末調整書類作成電子年末調整システムSmartHR
帳票発行業務紙の見積書・請求書作成・管理電子請求書システムInvoy、マネーフォワード請求書
帳票発行業務紙での契約書作成電子契約システムDocuSign、クラウドサイン
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新しく業務をデジタル化を検討したら、属人化しない業務フローを策定していきます。

4-5.新しい業務フローを策定する

業務の棚卸を完了し、削減する業務が具体的に決まったら、削減する業務の今後の業務の運用方法を検討していきます。

新しい業務フローを策定するポイント

  • 作業者確認者を業務ごとに設定する
    例: 見積書作成 → 上長が確認 → 顧客に送付。
    作業(担当者)→ 確認(別の担当者)→ 承認(責任者)のプロセスを構築し、ミスや漏れを防止します。作業者と確認者が分かれていることで、作業内容と業務のゴールが明確になるため、属人化を防ぐことができます。

最終的には以下のようなフォーマットで、新しい業務フローをまとめるといいでしょう。

【業務フローの要件定義の例】

項目記入例
対象業務見積書を作る
業務の目的顧客に迅速で正確な見積を届ける
見積作成の金額をリアルタイムで把握する
現状の課題エクセルで手書きで作成しているため時間がかかる
計算ミスが頻発している
見積書を今いくら出しているかわからない
システム選定の条件見積書のテンプレートが使用できること
クラウドで社内外からアクセスできること
操作が簡単で営業担当が扱いやすいこと
システム候補1.Misoca(帳票作成管理システム)
2.Invoy(帳票作成管理システム)
3.kintone(案件管理システム)
選定結果kintoneを選定。営業担当者2名がテスト運用して操作性を確認。
作業者営業担当
承認者上長、経理
システム化後のフロー1.営業が「案件アプリ」に案件を登録
-案件登録の際に見積中の商材と金額を入力
2.営業から上長に見積り案件をワークフローで確認
3.上長承認が来たら経理に通知
4.経理から見積ボタンを押下して、顧客へ見積りを送付する
新しいフローの開始時期2025年4月〜

ここで決定した要件をもとに、以下のように業務フロー図へ落とし込むと良いでしょう。

【業務フロー図の例】

  • 横方向に書くこと:時系列と順番
    業務が時系列と順番ごとに設計できているか?
  • 縦方向に書くこと:手段と経路
    手段と経路はもれなく記載されているか?

よく確認しながら、新しい業務フローを設計し、運用してみましょう。

ここまで、属人化している業務を解消するために、業務を整理してきました。
今後も、社内で属人化している業務が発生したら、この記事を読み返して属人化の解消に取り組んでみてください。

5.属人化の解消に関するよくある質問

5-1.なぜ属人化は起こるのですか?

属人化が起こる原因はいくつか考えられます。よくある原因を挙げます。

  1. 業務が複雑(タスク自体の難易度が高い)
    必要とする業務の専門知識が多く、引き継ぎが難しいため発生するケース

  2. 担当者が不安を抱えている(従業員起点)
    担当者が、業務を他のメンバーと共有すると存在意義がなくなってしまうと不安を抱いているケース。自分しかわからないというブラックボックスの状況をつくって、存在意義を高めようとする状況で発生するケースです。

  3. 業務プロセスが未整備(経営者起点)
    業務の進め方が、定まっておらず、全てが個別に判断されるケースでは、判断者によってしまいます。経営者の頭の中だけで業務の流れが存在し、チームに共有されていない場合、発生するケースです。

5-2.属人化の解消には、マニュアルが重要だといわれていますが本当でしょうか?

マニュアルは重要ではありません。

マニュアルは、そのマニュアルを覚えなければならないという性質を持っている時点でいまだ、属人化しています。マニュアルを覚えずとも、運用のなかでやり方がわかるような方法を検討してみてください。

5-3.誰に相談すればいいですか?

属人化の解消を悩んでいる場合、いきなりシステム開発会社に相談することはやめましょう。

現状の業務をスリム化していない時点で発注をすると、開発しなくてはいけないシステムが大きいものになり、開発金額が莫大なものになりがちです。

まずは、「要件定義」を代行してもらえるプロフェッショナルに相談をしてください。
当社でも、この業務の棚卸と今後の改善点をご提案する「要件定義サービス」を提供しております。

60分の無料相談で課題ごとに誰に相談したらいいかもアドバイスできますので、お気軽にご相談ください。

6.まとめ

属人化の解消はあくまで、企業が健全に事業成長を行うためにあります。
そのため、働く方への配慮や、環境の改善に向けて経営者と従業員が一緒に取り組むことが必要不可欠です。育休や産休、傷病休暇など、人が生きていると必ず起こるライフイベントにも対応できるような業務体制を作り、安心な職場環境を実現してください。

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