「見える化」とは?あらためて知りたい基本と具体的なツール導入方法

「社内の状況が複雑で、現状が把握できていない」
「データはあるのに、うまく活用できない」

このようなお悩みを抱えていないでしょうか。

昨今のビジネスシーンでは、状況が複雑化し、情報やデータも多様化しています。適切な意思決定や問題解決を行うには、「見える化」が欠かせません。

見える化とは、複雑な業務プロセスや抽象的な事象などを、誰もが感覚的・視覚的に理解しやすい形に変換し、戦略的な改善行動につなげる手法です。

見える化は、単に数字をグラフへ可視化するよりも広範な概念であり、その対象は課題や事象、プロセスまで多岐にわたります。

見える化は、ビジネスのあらゆる側面に適用できる重要な手法です。

 

本記事では、「見える化」の基本知識から、具体的なツール導入方法まで、実践的なノウハウをお届けします。

最後までお読みいただくと、「見える化」を戦略的に活用し、生産性と競争力を大幅に向上させるための手法が身につきます。ビジネスを先に進めるために、お役立てください。

1. 「見える化」とは何か?基本の知識

 

まずは「見える化」の基本的な部分から、確認していきましょう。

  1. 「見える化」の定義と目的
  2. 見える化の由来
  3. 見える化によって期待できる効果
  4. 「見える化」と「可視化」の違い

1-1. 「見える化」の定義と目的

冒頭でも触れたとおり、「見える化」は、抽象的・複雑な事象やプロセスを、誰もが直感的に理解しやすい形に変換する手法です。

「何のために見える化するのか?」といえば、この手法は、組織内の状況把握や意思決定の効率化を目指しています。

見える化の対象は多岐にわたり、業務プロセスから従業員の心理状態まで幅広く含まれます。

【見える化の主要要素】

  • 対象:業務進捗状況や問題点、成果指標、情報フロー、顧客行動パターン、従業員モチベーションなどの抽象的要素が含まれます。直接的に観察や測定が困難な事象ほど、見える化の意義があります。
  • 方法:図表やグラフ、チェックリスト、ボード、数値指標など、視覚的に理解しやすいツールを活用します。これらのツールは、複雑な情報を簡潔かつ明確に表現する役割を果たします。
  • 目的:現状の正確な把握と、それに基づく継続的な改善活動の促進が主目的です。問題点の早期発見や、組織内コミュニケーションの活性化、業務効率の向上なども目的として挙げられます。

見える化を通じて、問題の根本原因の特定や、効果的な改善策の立案が容易になる点を押さえておきましょう。

1-2. 見える化の由来

「見える化って、そもそも誰が提唱したの?」といった、由来が気になる方もいるでしょう。

見える化の概念は、トヨタに代表される製造業での品質管理や効率化の取り組みから発展しました。

その起源は、1960年代の日本の製造業にまでさかのぼると考えられます。当時、生産性向上を目指す中で、「目で見る管理」という手法が注目されるようになりました。

【見える化の歴史的発展】

  • トヨタ生産方式:1960年代に確立されたトヨタ生産方式は、見える化の先駆的実践例です。「あんどん方式」は生産ラインの問題を視覚的に表示し、「かんばん方式」は必要な部品の調達を効率化しました。
  • カイゼン活動:1980年代以降、カイゼン(継続的改善)の一環として、見える化手法が広く普及しました。この活動は、小さな改善の積み重ねによる大きな成果を目指すものです。
  • リーン生産方式:1990年代に入り、トヨタ生産方式をもとにしたリーン生産方式が世界的に注目されました。このなかで、見える化は重要な要素として位置づけられています。
  • デジタル化の進展:2000年代以降、ITツールの発達により、リアルタイムでのデータ可視化が容易になりました。見える化の手法はさらに進化し、適用範囲も拡大しています。

現在、見える化は製造業だけでなく、サービス業や公共部門など、さまざまな分野で活用されています。デジタルツールの進化により、より高度で効果的な見える化が可能になっています。

参考:J-Net21「「見える化」とはどういうことなのでしょうか?」

1-3. 見える化によって期待できる効果

見える化を適切に実施すると、組織にさまざまな好影響をもたらします。

その効果は、短期的なものから長期的なものまで幅広く、組織全体の生産性と競争力の向上につながります。

【見える化の主要効果】

  • 問題点の早期発見:潜在的な問題や非効率性を視覚化すると、迅速な対応が可能になります。たとえば、生産ラインの稼働状況をリアルタイムで表示すると、機器の不具合や生産遅延を即座に特定できます。
  • 関係者間の共通認識形成:情報の透明性が高まり、組織全体で同じ情報を共有できるようになります。この共有により、部門間の連携が強化され、プロジェクトの進行がスムーズになります。
  • 目標達成の促進:具体的な目標と進捗状況を可視化すると、従業員のモチベーション向上につながります。たとえば、営業チームの月間目標達成率を常に表示すると、チーム全体の士気を高められます。
  • 業務効率の向上:無駄な作業やボトルネック(妨げとなっている箇所)を特定し、改善を促進します。プロセスマッピングなどの手法を用いて業務フローを可視化すると、重複作業や非効率なステップを容易に発見できます。
  • 意思決定の質の向上:データに基づく客観的な判断が可能になります。経営指標をダッシュボード化すると、経営層が迅速かつ的確な意思決定を行えるようになります。

以上のとおり、見える化を継続的に実践すると、組織の競争力強化と持続的な成長が期待できます。

1-4. 「見える化」と「可視化」の違い

「見える化」と「可視化」は、しばしば混同されがちな概念です。しかし、両者には明確な違いがあります。

 

見える化と可視化の違いを正確に把握すると、より戦略的な組織運営に見える化を活用できるようになります。

以下にポイントをまとめましたので、ひとつずつご確認ください。

【見える化と可視化の比較】

  • 定義の違い:可視化はデータや情報を視覚的に表現する技術的プロセスを指します。一方、見える化は可視化を含みつつ、その情報を活用して問題解決や改善活動を行うまでの一連のプロセスを意味します。
  • 目的の範囲:可視化の主目的は情報の視覚的表現にとどまります。見える化は、その視覚化された情報をもとに、組織の問題点を特定し、改善策を講じることまでを含みます。
  • 適用範囲:可視化はおもにデータ分析や情報伝達の分野で使用されます。見える化は、経営戦略・業務改善・組織文化の変革など、より広範な領域で活用されます。
  • プロセスの深さ:可視化は情報の視覚的表現で完結しますが、見える化はその先の行動変容や組織変革までを視野に入れています。
  • 成果の評価:可視化の成果は情報の理解しやすさで評価されます。見える化は、その結果として生じた具体的な改善や問題解決の度合いで評価されます。

見える化は可視化を包含する、より広範で戦略的な概念です。組織改善を目指す際は、単なる可視化にとどまらず、見える化のプロセス全体を意識することが重要です。

2. 見える化の3つの重要ポイント

 

見える化を実践するうえでは、外せない重要なポイントが3つあります。

  1. ただ数字だけ見ていても意味がない
  2. 誰が見ても同じ理解ができるようにする
  3. 誰が見ても同じ判断で最適な行動ができるようにする

以下でそれぞれ解説します。

2-1. ただ数字だけ見ていても意味がない

1つめのポイントは「ただ数字だけ見ていても意味がない」です。

見える化において、単に数値を表示するだけでは不十分です。重要なのは、データの背後にある「意味」を理解し、それを適切に解釈することにほかなりません。

解釈のない「○%」といった数字の羅列は、ビジネスパーソンとしてやってはいけない行為と認識することが、見える化のスタートラインです。

 

数字は状態を表す指標ですが、その真の価値は、それらが示す洞察にあります。

【データ解釈の重要性】

  • コンテキスト(文脈)の理解:数値だけでなく、その数値が生まれた背景や環境を考慮します。たとえば、売上高の10%増加は、市場全体が20%成長している中ではかならずしも良好な結果とはいえません。
  • トレンド分析:単発の数値ではなく、時系列での変化を観察します。月次売上の推移を追跡すると、季節変動や長期的な成長傾向を把握できます。
  • 相関関係の探索:複数の指標間の関連性を分析します。たとえば広告費と新規顧客獲得数の関係を見ると、マーケティング効果を評価できます。
  • ベンチマーキング:業界標準や競合他社との比較を行います。自社の従業員満足度が80%でも、業界平均が90%なら改善の余地があると判断できます。
  • 目標との乖離:設定された目標値と実績値の差異を評価します。生産性指標が目標の95%に達している場合、わずかな改善で目標達成が可能だとわかります。

データの意味を正しく理解すると、より深い洞察が得られ、効果的な意思決定が可能になります。

数値の背後にある「ストーリー」を読み解く能力が、見える化の真の価値を引き出します。

2-2. 誰が見ても同じ理解ができるようにする

2つめのポイントは「誰が見ても同じ理解ができるようにする」です。

見える化の重要な目的のひとつは、組織内で共通の理解を形成することです。

データや情報を提示する際は、誰が見ても同じ解釈ができるよう、明確で一貫性のある表現方法を採用する必要があります。

この一貫性により、効果的なコミュニケーションと正確な意思決定が促進されます。

【共通理解を促進する要素】

  • 標準化された指標:KPI(重要業績評価指標)などの共通指標を定義し、一貫して使用します。たとえば、「顧客満足度」を5段階評価で統一すると、部門間での比較が容易になります。
  • 用語の定義の統一:組織内で使用する専門用語や略語の定義を明確にし、全社で共有します。コミュニケーションの齟齬を防ぎ、スムーズな情報交換ができるようにします。
  • 視覚的一貫性:グラフや図表のデザイン、色使い、スケールなどを統一します。たとえば「売上推移グラフの縦軸を常に0から始める」といったルールによって誤解を防ぎ、正確な比較が可能になります。
  • 直感的なレイアウト:情報の重要度や関連性に基づいて、論理的に配置します。最重要KPIをダッシュボードの中央に配置し、関連指標を周囲に配置するなどの工夫が効果的です。

共通理解を促進すると、部門間の連携が強化され、組織全体の意思決定プロセスが効率化されます。

誰もが同じ視点でデータを解釈できる環境を整えることが、見える化の成功には不可欠です。

2-3. 誰が見ても同じ判断で最適な行動ができるようにする

3つめのポイントは「誰が見ても同じ判断で最適な行動ができるようにする」です。

見える化の究極の目的は、データに基づく適切な行動を促すことです。

単に情報を共有するだけでなく、その情報から導き出される最適な判断と行動が、組織全体で一貫して実行されるようにすることが重要です。

この最もシンプルな例を挙げるなら「信号機」です。「赤なら止まる」という行動にまで、見える化が落とし込まれています。

【最適行動を導く要素】

  • アクションガイドラインの設定:各指標に対する具体的な行動指針を明確にします。たとえば、顧客満足度が80%を下回った場合、カスタマーサポートの増員や研修の実施など、具体的なアクションプランを事前に定義します。
  • 閾値の明確化:指標ごとに適切な目標値や警告レベルを設定します。在庫回転率が月2回を下回った場合は赤色表示にするなど、視覚的に判断基準を示します。
  • シナリオプランニング:さまざまな状況に対する対応策を事前に準備します。売上が予算の90%を下回った場合、80%を下回った場合など、複数のシナリオに応じた対策を用意し、迅速な対応を実行します。
  • 権限と責任の明確化:各指標に対する責任者と、その人物が取れる行動の範囲を明確にします。たとえば、生産ラインの稼働率低下に対し、ライン管理者が独自判断で調整できる範囲を明確にすると、迅速な対応が可能です。

最適な行動を促す仕組みを整えると、組織全体の意思決定の質が向上し、目標達成への道筋がより明確になります。

見える化は単なる情報共有ツールではなく、組織の行動変容を促す強力な手段となるのです。

3. 「見える化」を実行する4つの基本ステップ

 

続いて、見える化を実行する際の基本的な流れを、4つのステップで見ていきましょう。

  1. 目的を明確にする
  2. 必要な情報を集める
  3. 適切な方法を選ぶ
  4. 見える化を行い分析・改善する

3-1. 目的を明確にする

1つめのステップは「目的を明確にする」です。

見える化プロジェクトを開始する前に、その目的を明確に定義することが極めて重要です。

目的が曖昧だと、効果的な見える化が実現できず、貴重な時間とリソースを無駄にしてしまう可能性があります。

【目的設定のプロセス】

  • 現状分析:組織の現在の課題や改善点を特定します。たとえば、生産ラインの効率性が低下している場合、その原因を探るための見える化が目的となります。
  • ステークホルダー(関係者)の特定:見える化の結果を利用する人々を明確にします。経営層向けの戦略的意思決定支援なのか、現場作業員の日常業務改善なのかで、アプローチが大きく変わります。
  • 具体的な目標設定:SMART基準(具体的・測定可能・達成可能・関連性のある・期限付き)に基づいて目標を設定します。「3カ月以内に生産効率を15%向上させる」といった具体的な目標が有効です。
  • 期待される成果の定義:見える化によって達成したい具体的な成果を明確にします。たとえば、「意思決定時間の30%短縮」や「顧客満足度の10ポイント向上」などが挙げられます。
  • 制約条件の把握:予算・時間・人的リソースなどの制約を把握し、それらの範囲内で達成可能な目的を設定します。

目的を明確にすれば、見える化プロジェクトの焦点が絞られ、効果的なデータ収集と分析ができるようになります。

3-2. 必要な情報を集める

2つめのステップは「必要な情報を集める」です。

見える化の目的が明確になったら、次のステップは必要な情報を収集することです。

この段階では、目的達成に直接関連する質の高いデータを効率的に集めることが鍵です。不適切なデータ収集は、誤った分析や判断につながる可能性があるため、慎重に進める必要があります。

【効果的な情報収集の方法】

  • データソースの特定:目的に関連する情報がどこにあるかを明確にします。たとえば、顧客満足度向上が目的なら、アンケート結果・クレームデータ・リピート率などが重要なソースとなります。
  • データ品質の確保:収集するデータの正確性・完全性・一貫性を確認します。生産性データを収集する場合、測定方法や記録頻度を標準化し、信頼性の高いデータを確保します。
  • 自動化ツールの活用:可能な限り、データ収集プロセスを自動化します。社内システムなどを活用し、リアルタイムでデータを収集すると、最新の情報に基づく分析が可能です。
  • データのクレンジング:収集したデータから、異常値や重複、欠損値を除去します。たとえば、販売データを分析する際は、システムエラーによる異常な数値を除外し、正確な傾向分析ができるようにします。
  • データの統合:複数のソースから収集したデータを統合し、包括的な視点を得ます。たとえば、製造コストと品質データを統合すると、コスト効率と品質の関係を分析できます。

適切なデータ収集は、見える化の成功に不可欠です。目的に応じた正確かつ包括的なデータを効率的に集めて、信頼性の高い分析へつなげましょう。

3-3. 適切な方法を選ぶ

3つめのステップは「適切な方法を選ぶ」です。

データの性質や目的に合わせて、最も効果的な可視化手法を選定できれば、情報の理解度と活用度が大幅に向上します。

適切な方法を選ぶことは、見える化の成功に直結する重要なステップです。

【見える化手法の選択基準】

  • データの種類:定量的データか定性的データかを考慮します。売上高などの数値データはグラフ化しやすいですが、顧客フィードバックなどの定性的データはテキストマイニング(テキストデータから有用な情報を抽出・分析する手法)やワードクラウド(頻出単語を視覚的に表現する手法)が適しています。
  • 比較の目的:時系列比較、項目間比較、構成比など、何を比較したいかによって適切な図表が変わります。月別売上推移には折れ線グラフ、部門別売上比較には棒グラフが効果的です。
  • データの量と複雑さ:大量のデータや複雑な関係性を持つデータにはヒートマップ(データの値を色の濃淡で表現する図)やネットワーク図(要素間の関係性を点と線で表現する図)などの手法が適しています。たとえば、顧客セグメント間の関係性分析にはネットワーク図が有効です。
  • 対象者のリテラシー:データを見る人たちの分析スキルや専門知識のレベルを考慮します。経営層向けにはシンプルなダッシュボード、データサイエンティスト向けには詳細な散布図(データの分布を箱ひげ図で表現する手法)といった具合に使い分けます。
  • リアルタイムの必要性:データの更新頻度や即時性によって、適切な表示方法が変わります。工場の生産ラインモニタリングには、リアルタイムで更新されるゲージチャート(メーターのように数値を表示する図)やLED表示が効果的です。

※具体的な手法については、代表的なものを後ほどご紹介します。このまま読み進めてください。

3-4. 見える化を行い分析・改善する

4つめのステップは「見える化を行い分析・改善する」です。

見える化のプロセスは、データの可視化で終わるのではありません。

実際に見える化を行った後、そこから得られた洞察をもとに分析を行い、継続的に改善していくプロセスが核心となります。

【見える化後の分析・改善プロセス】

  • 初期評価:見える化した情報が当初の目的を達成しているかを評価します。たとえば、生産効率のダッシュボードが、意図したとおりにボトルネックを特定できているかを確認します。
  • 深堀分析:表面的な情報だけでなく、根本原因や隠れたパターンを探ります。たとえば、売上低下の傾向が見られた場合、顧客セグメント別や製品カテゴリー別に詳細分析を行い、具体的な要因を特定します。
  • アクションプランの策定:分析結果に基づいて、具体的な改善策を立案します。たとえば、顧客満足度の低下が見られた場合、カスタマーサポートの強化や製品改良など、具体的なアクションを計画します。
  • 効果測定:実施した改善策の効果を継続的にモニタリングします。売上向上策を実施した場合、週次や月次で売上推移を追跡し、期待通りの効果が出ているかを確認します。
  • フィードバックループの構築:見える化の方法自体も定期的に見直し、より効果的な形に進化させます。たとえば、従業員からのフィードバックをもとに、ダッシュボードのレイアウトや表示項目を最適化します。

重要なポイントとして、見える化は単なる現状把握のツールではなく、継続的な改善サイクルを駆動する原動力です。

分析と改善を繰り返しながら、組織の意思決定プロセスを高度化し、競争力の強化へつなげていきましょう。

4. 「見える化」に活用できる具体的なツール

 

続いて、見える化に活用できるツールを5つ、ご紹介します。

  1. KPIダッシュボード:リアルタイムモニタリングの実現
  2. プロセスマッピング:業務フローの最適化
  3. バリューストリームマップ:無駄の特定と削減
  4. ガントチャート:プロジェクト進捗の一元管理
  5. アンドンシステム:問題の早期発見と対応

ただし、これらのツールを単に導入することが見える化ではないという点に注意が必要です。前述のとおり、見える化とは単なる可視化にとどまらず、問題解決や改善活動を含む包括的なプロセスを指します。

以下にご紹介するツールは、見える化を実践する際のアイデアのひとつとして、参考にしていただければと思います。

4-1. KPIダッシュボード:リアルタイムモニタリングの実現

KPIダッシュボードは、組織の重要業績評価指標(KPI)をリアルタイムで可視化し、一目で現状を把握できるツールです。

【KPIダッシュボードの主要構成要素】

  • グラフィカル表示:数値データを棒グラフや折れ線グラフで表現します。たとえば、月次売上推移を折れ線グラフで表示し、前年同期比を棒グラフで併記すると、業績の動向が一目で把握できます。
  • ゲージチャート:達成率や進捗状況を視覚的に表現します。たとえば、生産ラインの稼働率を0%から100%のゲージで表示し、目標値との差異を即座に認識できるようにします。
  • ヒートマップ:複数の指標や部門間の比較を色の濃淡で表現します。たとえば、各店舗の売上達成率をヒートマップで表示すると、好調店舗と不振店舗を瞬時に識別できます。
  • アラート機能:設定した閾値を超えた場合に警告を発する機能です。たとえば、在庫回転率が基準値を下回った場合に赤色表示になり、担当者にメール通知が送られるようにします。
  • ドリルダウン機能:概要から詳細へと階層的に情報を掘り下げる機能です。全社売上から部門別、製品カテゴリー別へと詳細データにアクセスでき、問題の根本原因を特定しやすくなります。

ダッシュボードを効果的に活用すると、迅速な意思決定と継続的な業績改善が可能です。リアルタイムモニタリングにより、問題の早期発見と即時対応が実現し、組織の俊敏性が大幅に向上します。

4-2. プロセスマッピング:業務フローの最適化

プロセスマッピングは、組織内の業務フローを視覚的に表現し、そのプロセスを詳細に分析するために効果的なツールです。

【プロセスマッピングの主要要素】

  • 開始と終了ポイント:プロセスの始まりと終わりを明確に定義します。たとえば、顧客注文受付から商品配送完了までの一連の流れを図示します。
  • アクティビティボックス:各業務ステップを表す四角形で表現します。「注文確認」「在庫チェック」「梱包」など、具体的な作業内容を記述します。
  • 決定ポイント:プロセス内の分岐点をひし形で表します。「在庫あり/なし」「与信承認/否認」など、フローの方向性を決定する判断ポイントを示します。
  • フロー矢印:プロセスの流れを示す線や矢印です。作業の順序や情報の流れを明確に表現し、プロセス全体の構造を把握しやすくします。

この手法を用いると、業務の無駄や非効率な部分を特定し、最適化の機会を見出せます。プロセスマッピングは、複雑な業務フローを明確化し、改善点を浮き彫りにするうえで非常に有用です。

4-3. バリューストリームマップ:無駄の特定と削減

バリューストリームマップ(VSM)は、製品やサービスの提供プロセス全体を可視化し、価値を生み出す活動と無駄な活動を明確に区別するためのツールです。

 

この手法は、リーン生産方式(無駄を徹底的に排除し、効率的な生産を目指す経営手法)の中核をなす概念として知られています。

【バリューストリームマップの主要構成要素】

  • 情報フロー:顧客からの注文情報や生産計画など、プロセスを動かす情報の流れを表現します。たとえば、受注から生産指示までの情報伝達経路と所要時間を図示します。
  • 物の流れ:原材料から最終製品に至るまでの物理的な移動を表します。各工程での在庫量や移動距離、生産リードタイムなどを記載し、物流の効率性を評価します。
  • タイムライン:各プロセスにかかる時間を2つの観点で表示します。価値を生み出す時間(VA時間、Value Added Time)と、価値を生まない待機時間や移動時間(NVA時間、Non-Value Added Time)を区別して記録します。

リーン生産方式のVSMは、プロセス全体の流れを最適化するために効果的です。

なお、リーン生産方式について詳しく知りたい方は、中小企業庁の以下ページにて解説されていますので、ご確認ください。

リーン生産方式と従来の生産方式の違いについて教えてください。( J-Net21)

4-4. ガントチャート:プロジェクト進捗の一元管理

ガントチャートは、プロジェクトの各タスクの開始日、終了日、そして全体の進捗状況を視覚的に表現するツールです。

横軸に時間、縦軸にタスクを配置し、各タスクの期間を棒グラフで表すこの手法は、プロジェクト管理において不可欠な存在となっています。

【ガントチャートの主要構成要素】

  • タスクリスト:プロジェクトを構成するすべてのタスクを縦軸に列挙します。たとえば、ソフトウェア開発プロジェクトであれば、「要件定義」「設計」「実装」「テスト」などの主要フェーズとそれぞれの詳細タスクを記載します。
  • タイムライン:横軸に時間軸を設定し、プロジェクトの開始日から終了日までを表示します。日単位、週単位、月単位など、プロジェクトの規模に応じて適切な尺度を選択します。
  • タスクバー:各タスクの開始日から終了日までを棒グラフで表現します。タスクの進捗状況に応じて、バーの色や塗りつぶし具合を変更し、一目で進捗が把握できるようにします。
  • マイルストーン:重要な節目や成果物の完成時期をひし形のマークで表示します。たとえば、「基本設計完了」「テスト完了」などの重要イベントを明示し、プロジェクトの重要ポイントを強調します。
  • 依存関係:タスク間の関連性や順序を矢印で表現します。あるタスクが完了しないと次のタスクに着手できない場合など、タスク間の依存関係を明確にし、クリティカルパス(重要工程)を特定します。

ガントチャートを活用すると、プロジェクトの全体像を把握し、リソースの最適配分やスケジュールの調整を効率的に行えます。

4-5. アンドンシステム:問題の早期発見と対応

アンドンシステムは、生産ラインや業務プロセスにおける問題を即座に可視化し、迅速な対応を促す効果的なツールです。

 

出典:中部経済産業局「中部発きらり企業紹介 Vol.106 i Smart Technologies株式会社」

「アンドン」とは日本語で「行灯(あんどん)」を意味し、元々はトヨタ生産システムの一部として開発されました。

【アンドンシステムの主要構成要素】

  • 表示ボード:工場や事務所の見やすい位置に設置された大型ディスプレイです。各工程や部署の状況をリアルタイムで表示し、問題発生時には該当箇所が点灯または点滅します。たとえば、組立ラインの各ステーションの稼働状況を色分けで表示し、問題発生時は赤く点滅させます。
  • 警告灯:生産ラインの上部や各部署の上に設置された信号機のような装置です。緑(正常)、黄(注意)、赤(停止)などの色で状況を表し、問題発生時には点滅して注意を喚起します。
  • 音声アラート:視覚的な警告に加えて、音声で問題を通知します。たとえば、「ライン2で品質問題発生」といった具体的なアナウンスを流し、関係者の即時対応を促します。
  • 制御パネル:作業者が問題を報告し、支援を要請するためのボタンや端末です。問題の種類(品質、設備、材料など)を選択し、システムに入力すると、適切な対応者に通知が送られます。
  • データ記録機能:問題発生の頻度、対応時間、解決までの時間などを自動的に記録し、後の分析や改善活動に活用できるようにします。

このシステムは、問題が発生した際に視覚的・聴覚的な警告を発し、関係者全員に即時に情報を共有して、問題の早期解決と品質維持を実現します。

5. 「見える化」導入時の注意点と成功のポイント

 

最後に、見える化を導入する際の注意点や成功のポイントをお伝えします。

  1. 業務の棚卸しをしてから見える化に取り組む
  2. 自社専用のシステム開発を検討する
  3. 形骸化させずに継続的な改善を促す組織文化を醸成する

5-1. 業務の棚卸しをしてから見える化に取り組む

1つめは「業務の棚卸しをしてから見える化に取り組む」です。

見える化のプロジェクトが順調に進まない場合、その原因は現状の業務プロセスの複雑化や旧来のシステムにある可能性があります。

そこで、見える化の前準備として、業務の棚卸しが有益です。

【業務棚卸しの具体的手順】

  • 現状分析:各業務の担当者とヒアリングを行い、現行のフローやタスクを詳細に記録します。各プロセスの所要時間やリソース使用状況を明確に把握します。
  • ボトルネックの特定:業務の進行を阻害している要因を洗い出します。タスクの重複や非効率な手順を見つけ、改善のための優先順位をつけます。
  • 現場との調整:棚卸しの結果を現場の担当者と共有し、現実的な解決策を話し合います。現場の意見を反映し、実行可能な見える化の導入を目指します。
  • 改善策の仮設定:先駆けて改善が必要な箇所に対し、仮の改善策を試験的に導入します。具体的な見える化プロジェクトの実践がスムーズのできる環境を整えます。

この「業務の棚卸し」のプロセスを経て、見える化による効果を最大化し、問題解決やリソースの最適化を実現しやすい土壌が整います。

5-2. 自社専用のシステム開発を検討する

2つめは「自社専用のシステム開発を検討する」です。

汎用的な見える化ツールでは、業務の特性や要件に対応しきれない場合も多く、導入後の運用に支障をきたすケースがあります。

さまざまなツールを組み合わせて利用するうちに、かえって業務が複雑化している企業も少なくありません。

 

そこでおすすめしたいのが、自社のニーズに完全に適合するシステムを作って活用する方法です。

自社システムの開発には、初期投資や開発期間など課題もありますが、ご検討いただきたいのが、中小企業専門の社内システム開発サービスを使う選択肢です。

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5-3. 形骸化させずに継続的な改善を促す組織文化を醸成する

3つめは「形骸化させずに継続的な改善を促す組織文化を醸成する」です。

見える化プロジェクトが成功したとしても、そこで満足してしまい、その後の改善が滞ると、せっかくの効果が減少してしまいます。

見える化を組織文化に根付かせ、継続的な改善を促す環境を整えることが非常に重要です。

トップダウンでの強制的な指示に依存するのではなく、現場スタッフが主体的に改善に取り組める仕組みをあわせて設計しましょう。

【継続的な改善を促すための施策】

  • フィードバックサイクルの構築:現場からのフィードバックを定期的に集め、改善点を見える化します。従業員の意見を反映した改善策が策定されやすくなります。
  • KPIの設定とモニタリング:見える化の効果を数値で追跡し、定期的にモニタリングします。進捗状況を把握し、必要な修正が迅速に行われる体制を作ります。
  • 表彰制度の導入:現場での改善活動に積極的に取り組む従業員を表彰して、モチベーションを高めます。改善活動の推進力を維持しやすくなります。
  • 定期的な改善会議の開催:部署間で改善の状況を共有し、成功事例や失敗事例を共有します。こうした情報の共有は、ほかの部署でも有効な改善策を取り入れる機会として有効です。
  • トレーニングと教育:従業員が改善活動に必要な知識やスキルを身につけられるよう、定期的なトレーニングや教育プログラムを実行します。

全従業員が主体的に参加する環境を整え、見える化活動の実践を継続していきましょう。

6. まとめ

本記事では「見える化」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。

最初に、見える化の基礎知識として、以下を解説しました。

  • 見える化は抽象的な事象や複雑なプロセスを直感的に理解しやすい形に変換する手法
  • 問題点の早期発見、共通認識の形成、業務効率の向上などの効果が期待できる
  • 可視化とは異なり、問題解決や改善活動までを含む包括的な概念である

見える化の3つの重要ポイントは次のとおりです。

  1. ただ数字だけ見ていても意味がない
  2. 誰が見ても同じ理解ができるようにする
  3. 誰が見ても同じ判断で最適な行動ができるようにする

「見える化」を実行する4つの基本ステップとして、以下を解説しました。

  1. 目的を明確にする
  2. 必要な情報を集める
  3. 適切な方法を選ぶ
  4. 見える化を行い分析・改善する

「見える化」に活用できる具体的なツールとして、以下をご紹介しました。

  1. KPIダッシュボード:リアルタイムモニタリングの実現
  2. プロセスマッピング:業務フローの最適化
  3. バリューストリームマップ:無駄の特定と削減
  4. ガントチャート:プロジェクト進捗の一元管理
  5. アンドンシステム:問題の早期発見と対応

「見える化」導入時の注意点と成功のポイントとして、以下をお伝えしました。

  1. 業務の棚卸しをしてからツールを導入する
  2. 自社専用のシステム開発を検討する
  3. 形骸化させずに継続的な改善を促す組織文化を醸成する

見える化は、組織の現状を正確に把握し、未来への道筋を明確にする羅針盤の役割を果たします。

本記事で紹介した知識とツールを活用し、自組織に最適な見える化の実践を通じて、持続的な成長を実現していきましょう。

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