
【この記事で分かること】
- 指定都市とそれ以外の市町村で住民税の税率が違う理由
- なぜ指定都市は市民税の税率が高く、県民税の税率が低いのか
- いつから指定都市の市民税の税率は高くなったのか
皆さん、お疲れさまです!こちらは、地方行政サミット事務局です!
本日は、「指定都市とそれ以外の市で、市民税の税率が違う理由」について、取り上げて、お話をさせていただこうと思います。

実はこれ、あまり知られていない話みたいなのにゃ。
基本的な住民税の税率は「市町村:6%、都道府県:4%」
自治体が行政サービスを営む上での根幹的な財源である、地方税。
その地方税の中でも特に重要なのが、住民ひとりひとりが支払う、個人の住民税です。
個人の住民税の計算方法は、話し出すと長くなるのですが、ざっくり言うと、所得税の計算と概ね同様で「(所得−所得控除)×税率」となっており、各種控除額に若干の差がある程度です。
そして、その税率については、基本的に
- 市町村:6%
- 都道府県:4%
- 合計:10%
というふうになっているのが基本です。



ちなみに、実務的には市町村が都道府県分の住民税も合わせて賦課徴収し、都道府県分を後から支払う…というふうになっています。
指定都市は「指定都市:8%、都道府県:2%」
ところが、指定都市については、例外があって、
- 指定都市:8%
- 都道府県:2%
- 合計:10%
というふうに、合計の10%は変わらないのですが、その内訳で、2%の入り繰りが生じています。
住民負担には影響がないので、あまり語られてはいないのですが、「住民税の税率が、自治体によって異なる」というのは、実は結構すごいことのように思います。
理由がとても気になるところですよね。はてさて、なぜこうなっているのでしょう…。
2%=県費負担教職員人件費の指定都市負担に伴う税源移譲
この2%、何かといいますと、
県費負担教職員人件費の指定都市負担に伴う税源移譲
なんです。
具体的に言うと、本来、小学校や中学校といった義務教育学校における教職員の人件費は、都道府県が負担することとされています。



これを「県費負担教職員人件費」といいます。



基本的には義務教育にかかる教職員の人事に関することは、都道府県が広域的に処理することが望ましく、地教行法はそのように書かれているんだよね。
ところが、この制度が見直され、平成29年度から、県費負担教職員人件費の負担は、都道府県から指定都市に移譲されるとともに、その財源として、個人住民税の2%が都道府県から指定都市に税源移譲されることとなったのです。(実際に税源が移譲されたのは平成30年度から)
目指すべきは「権限と財源の一致」
この背景には、もともと教職員の人事権に関することは、指定都市は既に都道府県から権限移譲を受けており、権限的には既にほとんどが指定都市のところに移っていたのですが、人件費の支払い部分だけが都道府県に残っており、
「権限と財源を一致させるべきだ」
という議論が高まった、という話があります。
そしてこの議論をふっかけていったのは、財源負担をさせられている都道府県サイドではなく、指定都市サイドからであったというのが、とても興味深いところだったりします。



地方分権の本旨からすると、本来、自治体は権限と税源をセットで求めていくべきなので、そういう意味では理にかなっているのにゃ。



一方で、現場的には「新たな財政負担は避けたい」という思いもあって、なかなか理念どおりの要望って、出てこないんですよね。
とまあ、さまざまな思惑が入り交じる中で行われた一連の取組でありますが、これらを平易な言葉で書くと、
- 都道府県:県費負担教職員の人件費を負担しなくて良くなる代わりに、県民税2%を指定都市へ渡す
- 指定都市:市民税2%を新たに市の収入とできるようになった代わりに、県費負担教職員人件費を指定都市で負担する
といったような形で「権限と財源の一致」が果たされた、という格好になるのです。



え、でも、「増えた税収」と「新たに支払う人件費」は自治体によって違うから、自治体によって損得のばらつきがでそうだにゃ…。



そこは、普通交付税の算定を通じて調整がなされるんです。これはこれで話が長くなるので、また別の記事で説明しますね!


まとめ
「指定都市とそれ以外の市で、市民税の税率が違う理由」の説明は以上となりますが、いかがでしたか?
実はこの「市民税の税率が指定都市とそれ以外で異なる」という現象、住民の皆さんの税負担に直接的に影響しないから、あまり一般には知られていないのですが、実は「県費負担教職員の人件費」という大きな財政負担を指定都市が受け入れるため、こういった「都道府県から指定都市への税源移譲」が行われているんです。
なお、この話は、税務だけで終わる話ではなく、「自治体ごとの税収増と人件費増の金額差を調整」という、普通交付税の算定における議論がセットで必要です。
そちらについては、別記事で詳しく書いておりますので、ぜひ合わせてご覧くださいませ!

