
【この記事で分かること】
- 兵庫県人事課の秘密漏えい事案の概要
- 元局長のPCデータは「不開示情報」にあたるのか
- 秘密漏えいの場合の処分
皆さん、お疲れさまです!こちらは、地方行政サミット事務局です!
2024年、何かと話題の兵庫県ですが、そんな兵庫県におけるさまざまな実務上の論点の1つとして、「人事課の秘密漏えい事案」というものがあります。
本日は、そちらについて取り上げて、お話をさせていただこうと思います。

政治的な要素をはらむ問題だけど、ここではあくまで「実務」に絞ってお話しするにゃ。
兵庫県の問題をざっくりおさらい
2024年、揺れに揺れている兵庫県。
いったい何が起こっているのかを詳しく語ると、それだけでかなりの字数を費やしてしまうので、ここではざっくりとした説明に留めますが…
- 西播磨県民局長(当時)が知事のパワハラや物品受領(おねだり)、補助金キックバック疑惑など各種不正を告発する文書を関係者へ送付
- 副知事(当時)らが局長のパソコンを押収し、調査
- 知事が記者会見で「嘘八百」「公務員失格」と強い言葉で非難し、局長の退職を取り消す
- ところが、文書の内容に真実が含まれていたことが判明
- 知事はパソコン内データに不適切な内容が含まれていたことや、文書の誹謗中傷などを鑑みて元局長に懲戒処分
- 県議会は一連の問題を重く見て百条委員会を立ち上げ
- 元局長が「一死をもって抗議する。百条委員会で真相究明を」とのメッセージを残して自死
- 百条委員会における調査で文書内容が検証され、パワハラやおねだりについてかなりの証言が得られる
- 百条委員会に呼ばれた知事は「記憶にない」「道義的責任が何か分からない」などと不誠実な対応に終始
- この状況をみて、兵庫県議会は調査の結論を待つことなく不信任決議案を全会一致で可決し、知事は失職を選ぶ
- 知事はSNS戦略やNHKから国民を守る党・立花孝志氏の実質的な支援もあって再選
- ところが選挙後、SNS戦略における公職選挙法違反や百条委員会委員長への脅迫、対立候補のSNS凍結などが疑われている
- こうした問題が起こる中、県人事課しか持っていないはずの、元局長のPCデータがネット上に流出し、SNSで大きな話題となっている
…といったところです。



ツッコミどころが多すぎて、どこから突っ込んでいいか分からないにゃ…



関西ではこの件、相当な盛り上がりを見せているみたいですね…


懲戒処分の根拠となったデータが外部に流出
このように、一連の兵庫県の問題は、上記のリスト1行1行を見るだけでもかなりのことを語れそうなのですが、今回の記事では、「人事課の秘密漏えい事案」について取り上げることにします。
この件、何が問題かというと、
人事課が懲戒処分の根拠としたデータが、何らの手続きも経ないままに、県庁外の者の手にわたっていること
なのです。
これがどういうことか、解説していきます。
元西播磨県民局長には懲戒処分が発令された
元西播磨県民局長は、今回の件について、停職3カ月の懲戒処分を受けています。具体的な懲戒処分の根拠については、次のとおりである旨が、記者発表で明らかにされています。
- 文書配布による関係者への誹謗中傷
- 人事課時代に特定職員の顔写真データを持ち帰る
- 業務に関係のない文書を作成するなどの職務専念義務違反
- 次長級職員の人格を否定する文書を匿名で送付するハラスメント行為



一番上の「関係者への誹謗中傷」が、公益通報者保護法に規定される公益通報に該当し、仮にそうなら懲戒処分そのものが違法になるのではないか、というのが百条委員会における論点だね。



加えて、これらの行為で停職3カ月は重いのではないかとか、総務部長が「関係者」に含まれていることから、利害関係者が処分を決めており、手続きが不適切ではないかとか、他にも疑問があります。
このように、この懲戒処分については、そもそもの妥当性について、否定的な意見が非常に多いところではあるのですが、それはいったん置いておいたとして、現状この懲戒処分については発令されており、現時点において有効なものとなってしまっています。
ということは、この懲戒処分については法令・例規に基づいて適切になされたものということだと理解しなければなりません。
人事情報は通常「不開示情報」扱い
さて、今回の懲戒処分において、その事実を確認するための「証拠」となったものが、元西播磨県民局長のPCデータ、ということになります。
このPCを、時の副知事が自ら押収し、事情聴取することによって、上記懲戒処分の根拠となったわけですが…
そのPCデータの中身については、プライバシーに関するものが含まれていた上、そもそも人事に関する詳細な情報になるので、一般的に情報公開制度において「不開示」とされるべき性質のものです。
これについては、兵庫県の情報公開条例でもはっきりと明示されています。
第6条 実施機関は、公開請求があったときは、当該公開請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報(以下「非公開情報」という。)が記録されている場合を除き、請求者に対し、当該公文書を公開しなければならない。
(1) 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人を識別することができるもののうち、通常他人に知られたくないと認められるもの又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの(1)の2〜(5) 略
(6) 県の機関若しくは国、独立行政法人等、他の地方公共団体若しくは地方独立行政法人が行う事務若しくは事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務若しくは事業の性質上、当該事務若しくは事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの又は警察官その他の公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう。)(以下「警察官等」という。)の従事する事務若しくは事業の遂行に係る情報に含まれる警察官等の氏名であって、公にすることにより、当該警察官等の従事する事務若しくは事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものとして実施機関の規則(実施機関が警察本部長である場合にあっては、公安委員会規則)で定めるもの
ア 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
イ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ウ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
エ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
オ 地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
こうしたことから、元局長のPCデータは、情報公開条例に基づく不開示情報に該当すると一般に考えるのが自然であり、人事課の中から他の県庁職員に流出することすら、通常は想定されないものです。



ましてや、外部に流出するなんて論外です。



なお、「このPCデータが文書問題の真相解明に必須」という主張をする人がいますが、文書問題の疑惑と元局長のプライベートには全く関係がありません。



その主張、「真相を解明しようとすると元局長のプライバシーが暴露されることになるが、それでいいのか」という脅しのようにしか見えないにゃ…。
もし流出していたら「秘密の漏えい」にあたるのに…
にもかかわらず、今回の件、元西播磨県民局長のPCデータの内容を、NHKから国民を守る党の立花孝志氏や丸山穂高氏がSNS等で暴露するという事態が起こっています。



具体的な情報内容について言及すると、我々も暴露に加担することになるとの考え方のもと、私たちはその情報には一切言及しません。
この情報がホンモノかどうかについては諸説ありますが、関係者の情報を総合すると、少なくともデータの完全なる同一性はさておき、PCデータの中身の具体的な情報とは符合しているようです。
従って、
ということは明らかです。
ということは、
人事課から幹部職員までの間の誰かが、「不開示情報」を、悪意をもって外部に流出させている
ということも、間違いなく言えるでしょう。
兵庫県内市町の市議会議員が行った公文書開示請求によると、今回の懲戒処分にかかる決裁に関与しているのは、
- 知事
- 2人の副知事
- 総務部長(当時)
- 職員局長
- 人事課長
- 人事課副課長
- 人事課人事班長
- 人事課人事班主幹
- 人事課主任
とのことで、この中の誰かが人事にかかる不開示情報を流出させた、言うなれば「秘密の漏えい」行為を行った、ということになります。



もし外部に漏らしたのがこの面々の中の誰でもなかった場合、人事課からその者に漏らしたこともまた「秘密の漏えい」にあたりそうだにゃ。
「秘密の漏えい」は免職または停職
さて、このような秘密漏えいもまた、懲戒処分に該当しそうな案件ですが、はたしてどれくらいの処分が下されるものなのでしょうか。
兵庫県の「懲戒処分指針」には、次のように書かれています。
(8) 秘密漏えい
ア 職務上知ることのできた秘密を故意に漏らし、公務の運営に重大な支障を生じさせた職員は、免職又は停職とする。この場合において、自己の不正な利益を図る目的で秘密を漏らした職員は、免職とする。
イ 具体的に命令され、又は注意喚起された情報セキュリティ対策を怠ったことにより、職務上の秘密が漏えいし、公務の運営に重大な支障を生じさせた職員は、停職、減給又は戒告とする。
従って、今回の件、
- 漏えいさせた職員:免職または停職
- 仮に上司の命令に従って漏えいさせた場合:停職、減給、または戒告
ということになり、上記の情報を漏えいさせた職員には、非常に重い懲戒処分が科されることになります。



ということは、職員が少しでも身を守るためには「漏えいさせたのは自分だったけど、上司の命令に従った」ということにするしかないんですね。



その場合「指示をした上司は誰だ?」という話が出てきて、その上司が重い処分を受けることになりますね…。



そして、どのパターンになっても、少なくとも知事の管理監督責任は免れないだろうから、議会はそこを攻めてくるだろうね。
そもそも地方公務員法違反⇒失職の可能性も
そして、今回の秘密漏えいについては、そもそも地方公務員法に違反する行為であるということも、大変重要なポイントです。
地方公務員法を見てみましょう。
第三十四条 職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
今回の人事課の懲戒処分決裁における元局長のPCデータは、まさにこの「職務上知り得た秘密」に該当します。
従って、これを外部に漏らした行為は、まさに地方公務員法第34条違反ということになります。
そして、地方公務員法第34条違反には、刑事罰がついています。
第六十条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第十三条の規定に違反して差別をした者
二 第三十四条第一項又は第二項の規定(第九条の二第十二項において準用する場合を含む。)に違反して秘密を漏らした者
そして、仮に本件秘密漏えいで懲役刑がついてしまった場合、執行猶予がついたとしても、地方公務員法の規定により失職することになります。
第十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
一 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者第二十八条
4 職員は、第十六条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至つたときは、条例に特別の定めがある場合を除くほか、その職を失う。
従って、今回の当事者は、県の内規による懲戒処分のみならず、地方公務員法違反で懲役刑がつくことによる失職の可能性も想定しなければならいわけなのです。



県庁の人事課職員ともあろう者たちが、地方公務員法のこの辺の規定を知らないとは思えないのにゃ…。



そう、だからこそ、この話は闇を感じるんだよね…。
まとめ
本日の「兵庫県人事課の秘密漏えい事案」に関する解説は以上となりますが、いかがでしょうか?
何かと問題の多い兵庫県ですが、そこには政治的思惑が絡んでいることが多く、実務家としてはなかなか手を出しにくいところではあります。
そうした中、今回取り上げた「人事課の秘密漏えい事案」については、懲戒処分の要件も満たす上、そもそも地方公務員法違反でもあり、刑事罰が科されうる案件です。
人事課の組織的不正行為に対して、どのように懲戒処分を行うのか、実務的にはそこも大変気になるところではありますが、とりあえず本稿では「兵庫県人事課において秘密漏えい事案とおぼしきことが起こっている」ということだけを、いったんは指摘しておきたいと思います。
兵庫県の一連の問題は、地方自治法や地方公務員法に関して考える、良い教材になっている面もあります。引き続き、注目し、必要に応じて議論していきたいと思います。



