
【この記事で分かること】
- 災害時における普通交付税の繰り上げ交付とは
- 普通交付税の繰り上げ交付に意味が無いと考える理由
- 普通交付税繰り上げ交付に代わる、災害時に必要な財政措置とは
皆さん、お疲れさまです!こちらは、地方行政サミット事務局です!
本日は、災害時の普通交付税繰り上げ交付について、お話をさせていただこうと思います。

総務省と地方自治体で、見える景色が違う典型的な事例の一つにゃ。
普通交付税の繰り上げ交付とは
災害が起こると、総務省においてよく取られる動きが、「普通交付税の繰り上げ交付」。
でも、これ、



本来もらえる交付税を前借りしてるだけで、意味ないんじゃないの?
という素朴な疑問を持っている人は、多いと思います。
一方で、



総務省が、わざわざ普通交付税を繰り上げ交付するんだから、当然、政策的な意味はあるはず!
というふうに考えている方もいるようです。
普通交付税の交付時期は
通常、普通交付税は、次のようなルーティンで、年4回、交付がなされます。
- 4月概算交付…前年の交付決定額に一定の割合を乗じた額を交付
- 6月概算交付…前年の交付決定額に一定の割合を乗じた額を交付
- 7月交付決定…当該年度の普通交付税額を決定する(遅くとも8月31日までに)
- 9月交付…交付決定額から既交付額を除き、残りの1/2を交付
- 11月交付…残りの額を交付
これらは、地方交付税法第16条第1項に規定があります。
地方交付税法(抄)
(交付時期)
第十六条 交付税は、毎年度、左の表の上欄に掲げる時期に、それぞれの下欄に定める額を交付する。ただし、四月及び六月において交付すべき交付税については、当該年度において交付すべき普通交付税の額が前年度の普通交付税の額に比して著しく減少することとなると認められる地方団体又は前年度においては普通交付税の交付を受けたが、当該年度においては普通交付税の交付を受けないこととなると認められる地方団体に対しては、当該交付すべき額の全部又は一部を交付しないことができる。
普通交付税の繰り上げ交付とは
このように、普通交付税の交付時期は年4回とされているのですが…
たとえば、一部地域で台風や地震などのような大規模な災害が発生すると、総務省の方で、普通交付税の繰り上げ交付という措置がとられます。
こちらも、地方交付税法に規定があり、具体的には第16条第2項が該当します。
地方交付税法(抄)
第16条
2 当該年度の国の予算の成立しないこと、国の予算の追加又は修正により交付税の総額に変更があつたこと、大規模な災害があつたこと等の事由により、前項の規定により難い場合における交付税の交付時期及び交付時期ごとに交付すべき額については、国の暫定予算の額及びその成立の状況、交付税の総額の変更の程度、前年度の交付税の額、大規模な災害による特別の財政需要の額等を参しやくして、総務省令で定めるところにより、特例を設けることができる。
たとえば、令和5年8月に行われた、普通交付税の繰り上げ交付について見てみましょう。
総務省のプレスリリースには、次のようなことが書かれています。
総務省は、令和5年台風第7号により多大な被害を受けた地方公共団体に対し、地方交付税法第16条第2項の規定に基づき、9月に定例交付すべき普通交付税の一部を繰り上げて交付することとしました。
対象団体 7団体(4市3町)
京都府 福知山市、舞鶴市、綾部市
兵庫県 香美町
鳥取県 鳥取市、八頭町、三朝町
※総務省ホームページの報道発表資料より
このように、
災害に見舞われた団体に対して、定例の交付時期よりも前倒しで普通交付税を交付するのが、普通交付税の繰り上げ交付
です。
なぜ普通交付税の繰り上げ交付を行うのか
このような普通交付税の繰り上げ交付を行う理由として、総務省は
被災団体の資金繰りを円滑にするため
というのを掲げています。
被災団体は、一時的な財政支出が多額に発生するにもかかわらず、その支出の財源となる現金が足りなくなることが見込まれることから、普通交付税を繰り上げ交付することにより、少しでも手持ちの現金を多めにしておくことができます。
もちろん、「あくまで繰り上げ交付でしかない」ので、最終的な交付額には影響はしません。ただ、同じ額であったとしても、現金が早めに手元に来るので、臨時的な支出で歳計現金が足りなくなって、一時借入金が発生することを防ぐことができる…
これが、総務省的な「普通交付税の繰り上げ交付」の理由です。



そう、「総務省的な」理由です。
繰り上げ交付理由に対する素朴な疑問
ところで、この説明を聞いたとき、素朴に思う疑問がいくつかあります。以下、それらを見ていきましょう。
たかが数週間で歳計現金が枯渇するほど自治体の資金繰りは厳しくない
先ほどの総務省的な繰り上げ交付の理由は、
「自治体の資金が不足気味で、臨時的な支出があったらすぐに金融機関からの一時借入金が発生してしまう」
というのであれば一定理解ができるのですが、実際、そのような状況にあるとは言いがたい状況です。
多くの自治体はここしばらく、基金残高が増加傾向にあり、財務省が地財折衝における交付税減額査定のネタにしてくるほど。
基金残高が潤沢にあり、かつ長期の運用に回っていない状況であれば、歳計現金が不足しても繰替運用対応をすることができるので、一時借入金を金融機関に支払う事態は回避できます。



まあ、細かいことを言えば、基金運用の機会損失とかはあるんですけどね。



ホントに細かい話にゃ…。
こういった状況ですので、実際問題として、
わざわざ国が普通交付税の繰り上げ交付という大層なことを行うほど、多くの自治体は日々の資金繰りに困っているわけではない
ということが言えるのです。



ちなみに、仮に一時借入金が出たとしても、その利子は「一時借入金額×年利率×(定例交付までの日数÷365)」なので、そんなに大した金額でもなさそう…。



確かにそうだけど、今後、金利は上がってきそうだから、そこは油断禁物かもしれないのにゃ。
そもそも災害でただちに資金不足に陥ることは考えにくい
そして、こちらはもっと本質的な問題だと思うのですが…
災害時に、速攻で現金支出を行う機会自体が考えられない
のです。
通常、自治体が予算を執行しようとすると、
- 予算措置(予算の議決、流用、予備費充当、既定予算の執行判断など)
- 支出負担行為
- 支出命令
というプロセスをとる必要があります。
災害対応で予算支出の必要性が認められたとしても、そもそも災害対応するための予算をどう措置するかを考えないといけないですし、そして仮に予算措置があったとしても、支出負担行為や支出命令の決裁が必要となります。
また、軽易な支出ならともかく、たとえば災害復旧工事であれば支出負担行為のタイミングで契約も必要になりますし、実際に工事代金すべてを現金を支払うには、工事の完了を待たないといけません。
このように、自治体予算の支出には、良くも悪くも一定の時間がかかってしまうのですが…
逆にいうと、
予算執行には一定の時間が必要になるので、自治体は、被災後ただちに資金不足が生じるわけではない
ということが言えるのです。
なので、せっかくの普通交付税繰り上げ交付も、多くの自治体では



うわ、災害対応で忙しいのに、急いで歳入受け入れ事務をしないといけない…
というふうに、「ありがた迷惑」と思われているのが実情だったりします。



総務省的には、被災した自治体に寄り添っているつもりなんでしょうけどね…。



意地悪な言い方だけど、総務省の「やってる感の演出」でしかない面は否めないのにゃ。
まとめ
以上、本日は、普通交付税の繰り上げ交付についてお話しいたしました。
災害時における、普通交付税の繰り上げ交付。よく見られる光景で、多くの人が特に何も疑いを持たず、



ああ、そういうもんだな
というふうに受け入れがちな話ですが、実はこれ、結局のところは
- もともと交付予定だった普通交付税を、数週間〜1カ月程度繰り上げて交付しているだけ
- 総務省の言う「資金繰りを円滑にするため」も、実際のところはそれほど大した効果が無い
というのが、多くの自治体現場の現実だったりします。
自治体現場が災害時に必要としていることは、
- 災害対応に集中すべく、できるだけ余計な仕事をしないこと
- 災害で生じた+αの支出に対応するための、+αの財源
この2つです。
残念ながら普通交付税の繰り上げ交付は、自治体現場にとってそれほど大きな効果があるわけではなく、その割に総務省はわざわざ総務大臣会見などで被災団体の名前を挙げながらこの取組を紹介してきます。
これ、災害にやられてギリギリの心理状態の中で対応にあたっている自治体職員の立場からすると
という、いささかひねた見方しかできないのが現実です。
そんなことよりも、自治体で災害対応にあたっている立場からすると、災害対応で新たに必要となった財政需要に対する、+αの財源手当を、しっかりやってほしいというのが本音。
おそらくその手法としては特別交付税になるのでしょうが、総務省はこちらもしっかり対応してくれていることは知っています。
災害の時には、普通交付税の繰り上げ交付でお茶を濁すのではなく、特別交付税での措置をしっかり行い、そのことを、総務大臣の口から、しっかりと会見で話してほしいな…
と、さまざまな自治体が普通交付税の繰り上げ交付を受ける度に、私たちはいつも、思っているのです。