
【この記事で分かること】
- 行政においてフリーアドレスが不要な理由
- 行政におけるフリーアドレスのデメリット
- フリーアドレスにおける機密情報の漏えいリスク
皆さん、お疲れさまです!こちらは、地方行政サミット事務局です!
本日は、行政・役所におけるフリーアドレスの不要論について、取り上げて、お話をさせていただこうと思います。

フリーアドレス、もてはやされる流れにあるけど、最近はその有効性に疑義が出て、改めて考え直す動きも出てきているのにゃ。
フリーアドレスとは
まず、そもそもフリーアドレスとは何なのかについて、簡単に説明いたします。
フリーアドレスとは、オフィスの中で固定席を持たずに、ノートパソコンなどを活用して自分の好きな席で働くワークスタイルのことです。図書館の閲覧テーブルのように、個人席を決めずに空いている席を使う形式で、その時オフィスにいない人のスペースを有効活用できます。
※コクヨ公式ページより
一般に、役所の事務室といえば、
- 部長はじめ幹部職員に個室(机+打合せスペース)
- 課長クラスには離れた単独席
- 係単位で係員の机を固め、係長が筆頭席に座る
といった配置にするのが定番かと思います。
しかし、このフリーアドレスは、そういった役所的な机の配置を抜本的に見直し、役職や事務分掌にとらわれず、好きなときに好きなところに座れる、という、
これまでにない形の事務室を志向する
ものになっています。
フリーアドレス導入のメリット
フリーアドレスになると、これまでのように個人の机がなくなるので、個人で書類を持つことができません。
従って、書類や資料などをできるだけ電子化し、パソコンなどのデジタル端末で扱うようにするという、いわゆるペーパーレスの取組がセットで進むことになります。
おりしも、各自治体はデジタル化・DXの取組を進めているところであり、このペーパーレスもその一環として進められていることでしょうから、フリーアドレスはデジタル化・DXと相性が良いと一般に理解されています。
また、個人の机がなくなるので、個人持ちの文房具や私物などを置くスペースもなくなってしまうことから、フリーアドレスを導入する際には、机の入れ替えと合わせて、別途個人のものを置くロッカーを整備する必要があります。
個人持ちの書類や私物がなくなることによって、見た目はすごくスッキリとした、機能的に見えるオフィスが出来上がることになります。
ですので、フリーアドレスの導入については
- これまでの慣習にとらわれない柔軟な配席
- ペーパーレスの推進
- すっきりとした見栄えの良いオフィスの実現
といったところに、そのメリットを見いだせるのではないかと思います。
行政・役所にフリーアドレスは向いていない!
このフリーアドレス、「先駆的な働き方」とか「新しい働き方」といった形で絶賛され、



時代はフリーアドレスだ!
などのような勢いで、さまざまな民間企業においてフリーアドレスの導入が進んでいきました。
また、民間のみならず、中央省庁やさまざまな自治体でもフリーアドレスの導入が進められており、そういった情報をGoogleなどで検索すると、軒並み



フリーアドレスは素晴らしい!やって良かった!
などのように、絶賛する意見ばかりがでてきます。
しかし、落ち着いて冷静に考えると、
一般的な役所において、フリーアドレスが効率的とは、どうしても思えない
のです。
なぜ役所にフリーアドレスは向いていないのか
なぜ、役所・行政の仕事において、フリーアドレスがなじまないのか。以下、考察していきます。
【理由①】官僚制組織とフリーアドレスの相性が悪く、ミッションが組織で共有されない
役所の組織というのは、そもそもが官僚制組織の形になっています。
官僚制組織とは、ざっくり言うと、
- 階級制度があり、上下関係が明確に定められている
- 職務や役割、責任が明確に定義されている
- 仕事の進め方や意思形成プロセスに明確なルールがある
といった性質を持つ組織のことであり、国の各府省、そして地方公共団体は例外なくこの形で組織が形成されています。
そして、この組織体制においては、
- 組織単位でミッションが構成されている
- その組織単位の長が責任者となって、ミッションをまとめ上げる
- こうしてまとめ上げられた組織単位のミッションの集合体が、全体の成果物となる
という形で仕事を進めていくことになります。
従って、フリーアドレスが導入されると、
同じミッションのもとで働く同一組織内の職員が引き離される
⇒これにより、業務能率が低下する
という事態が起こるのです。
従来型の配席は、同一ミッションを担う職員を固め、気軽にコミュニケーションを取れる環境を作り出すことで、チームの一体感や、業務能率の効率化が図られていました。
ところが、フリーアドレスを導入すると、そうしたチームの職員が物理的に離れ、他のミッションを負う職員と席が近くなることが起こりえます。
こうなると、近くにいる職員とコミュニケーションを取ることが日々の仕事におけるメリットではなくなってしまい、ただの「雑談」に終わってしまうようになります。
言うなれば、フリーアドレスは
フリーアドレスは、官僚制組織のもとで構成されたチームの結束を破壊する行為
であり、少なくとも官僚制組織として構築されている役所という組織においては、基本的にメリットがないどころか、デメリットを生んでしまうのが現実なのです。
【理由②】私語・雑談が増えて職場の秩序が乱れる
先ほど述べたように、官僚制組織のもとで設計された配席をリセットして行うフリーアドレスは、職務上のパートナーではない職員が隣席に座ることも多くなります。
もちろん、普段コミュニケーションをとらない人と横になって、さまざまな情報交換を行うことは悪いことではないと思うのですが、
職務上のパートナーでない人と交わす話題は、仕事のことにはなりにくく、いつの間にか単なる雑談になってしまっている
ということが、往々にしてあります。
おいしいお店の話、飲み屋の話、家族の話、昨日見たテレビやYouTubeの話、趣味の話などなど…
もちろん、多少の雑談が息抜きになったり、そこから仕事における新たなアイデアが生まれるきっかけになることもあると思うので、それ自体がすべて否定されるものではないと考えます。
しかし、あまりにも職務に関係のない話題に花を咲かせることは、真剣に仕事をしている人にとって非常に邪魔で気分の悪いものですし、度が過ぎると職務専念義務違反を疑われかねません。
また、公務員の場合は税金から給料が出ているという特殊な立場であることから、住民からの厳しい目があることも念頭に置いておかなければなりません。特に住民の出入りがある職場では、こういった雑談は、決して許されるものではないでしょう。
フリーアドレスは、職務上のつながりがない人が隣席に座り、職務上のコミュニケーションがとれなくなるため、こういった過度な私語・雑談を誘発しやすい
ということは、フリーアドレス導入において、十分に留意しなければなりません。



庁舎執務室の施錠がなされていると、こういった問題はクリアできるのかもなのにゃが、だからといって私語に花を咲かせていいという話にはならないと思うのにゃ。


【理由③】機密情報の扱いに苦慮する
フリーアドレスは、開放的な職場であることから、さまざまな情報を多くの人と共有して仕事をすることになるイメージがあります。
しかし、実際のところ、行政は多くの機密情報を扱っており、ものによってはそれが係内限り、課長限りとなっているものが多々あります。
フリーアドレスになると、そうした機密情報の扱いに非常に苦慮することになります。
いくつか実例を見ていきましょう。


人事関係事務はフリーアドレスだと扱いづらい
基本的に、人事に関する情報は、人事課、総務課、管理職限りで処理され、無関係な職員の耳には入れないようにするものです。
しかし、フリーアドレスになると、管理職と非管理職が隣り合って座ることもありますが、そういった状況下で、たとえば総務課と管理職が人事異動の話や勤務評定の話をすることは、非常に難しくなります。
一般的な固定席では、課長などの管理職は一般職から少し離れたところに席があることが多く、そこで小声で話をしたりすることも多いのですが、そういった「人事系のひそひそ話」がフリーアドレスだとやりにくくなります。
このほか、たとえば職員がメンタルで休職に入った場合、診断書を添付した決裁を回議するといった事務もあったりしますが、こういう事務も、フリーアドレスのもとでオープンにやるような仕事ではありません。
予定価格の書かれた資料の扱いに困る
入札や見積もり合わせなどを行う際、役所は予定価格を設定しますが、この予定価格は行政の情報の中でも特に機密性の高いものになります。
従って、この予定価格については、たとえ課内であっても情報共有はNGで、この数値に触る人は必要最小限にするように運用されるのが基本です。
これらの事務がペーパーレスになっていれば問題はまだ少なくなるのですが、予算関係事務・契約関係事務は、事業者側にも対応が必要となることからペーパーレス化が遅れていることが多く、紙ベースでの事務処理を余儀なくされる事例はいろんな自治体であると聞いています。
こういった「特に取扱いに留意を要する情報」の取扱いは、フリーアドレスだと難儀します。
機密情報が漏れやすい
先述のように、フリーアドレスは職務に直接関係のない私語や雑談を誘発しがちですが、そういった「何でも話してしまえる環境」は、機密情報が漏れやすくなるという状況でもあります。
というのも、「ここだけの話」とか「秘密」というのは、雑談において定番となるもの。そういった話題における定番といえば…
- 課の不祥事
- 職員のセクハラ・パワハラ
- 職員の懲戒処分
- 予算査定・政策調整・定員管理・組織改正
- 政治家がからむ、いわゆる「マル政」案件の処理
- 首長の次期選挙の出馬意思など、政治家の出処進退
といった、「ある部署では機密性保持を前提に職務として取り扱うけど、関係ない職員にとっては噂話のタネになるもの」。
こういった情報は、機密性の保持が必要であるにもかかわらず、フリーアドレスの中で誰か一人が知ってしまい、それを横の人に話したりすると、瞬く間に情報が広がってしまいます。
特にフリーアドレスは周りの雑談に聞き耳を立てやすいので、「ここだけの話」が本当に一瞬で拡散してしまうのです。
もっとも、たとえば人事課のように「職員全員が高度な機密情報を扱い、かつ全員が高いモラルを持っている」ような部署であれば問題がないのですが、たとえば部局総務課のように、「一部の職員だけが人事権限を持っている」ような部署は、機密情報が漏れやすいです。
こうしたことから、
一部の職員だけが機密性の高い情報を扱う部署において、フリーアドレスは非常に危険
ということが言えるでしょう。
【理由④】職員のプライバシー・パーソナルスペースが侵される
基本的に人間は、自己の状況や環境を安定させるために、親しくない人間とは、一定の距離を取るようになっており、その距離が過度に詰められると、ストレスを感じたり、不安になったりするものです。
こういった感覚は「パーソナルスペース」と呼ばれています。パーソナルスペースの許容範囲は人によって異なりますが、基本的に、
ということでもあります。
ところが、フリーアドレスの場合、毎日横に誰が座るかが分からない上、自分のスペースと言える場所が全くないので、自分が安心して仕事ができるだけのパーソナルスペースがなく、落ち着いて仕事ができない…もっといえば「生きづらさを感じる」という指摘があります。
「陽キャ」と言われる、常に明るくさまざまな人とコミュニケーションを取れる人にとっては大して気にならないかもしれません。
しかし、そうでないような人にとっては、一定のパーソナルスペースを確保することによる安心感は重要であり、そのパーソナルスペースが侵されることについて、不安になり、そのことが職務能率を落とすようなことになってしまう懸念もあります。



そしてパーソナルスペースのことなど気にしない陽キャ職員たちはというと、楽しそうに雑談してるだけだったりするから、困ったものなのにゃ。
まとめ
以上、本日は、役所においてフリーアドレスが不要だと考える理由について、考察させていただきました。
一般にフリーアドレスは「現代的な働き方」だとか「時代の流れ」とかいったように、深い考察もないままに高く評価されている傾向にあります。
もちろん、業種や業態、働き方によってはフリーアドレスが有効な場合もあるとは思うのですが、
一般的な役所の仕事においては、フリーアドレスはデメリットばかりが目立ち、有効性を見いだすことは非常に困難
だと言わざるを得ません。
ネットを検索すると、コクヨのように、フリーアドレスの導入機運をビジネスチャンスにしている企業がいたり、デジタル化・DX推進をミッションとして追わされている外部登用のCIO補佐官が「とりあえずやってみよう」とフリーアドレスを始めさせようとしていたりします。
しかし、そういったフリーアドレス推進の雰囲気に飲まれる必要は、私は全く無いと考えています。
本当にフリーアドレスが必要なのか。フリーアドレスを導入することによって、公務能率が高まり、その成果を住民に還元できるのか。その手段として、フリーアドレスがもっとも適切なのか。
フリーアドレスは、あくまで「手段」にすぎません。フリーアドレスの導入に際しては、「それ自体が目的」となることが決してないよう、十分に注意し、慎重に慎重を重ねて、検討いただきたいと思います。



フリーアドレスについては、行政実務者の視点から、他にもいくつか記事を書く予定にしています!